篠ノ井信里生活1年8か月目 2025年8月31日
那須野 佑樹 篠ノ井信里地区担当
こんにちは! 篠ノ井信里地区の那須野です。 今年は雨が降らなくて、土壌水分量がちょうどよく、ワインにとってはグレートヴィンテージになる予感です! 2025年ヴィンテージのワイン、来年あたりから他社さんのワインもどんどん出てくると思いますが、この天気が収穫まで続けば、特に長野県のワインはどこも良いワインになりそうです。
で、8月半ばからこのブログを作業の合間をみつけて少しずつ書いていたので、これから冒頭の文とは真逆の事を言います。
というのも、圃場内で100粒とってきて平均値を出しての果汁分析を8/27にやってみて、結果的には数値がかなり良かったのですが、
このブログを書き始めた8/20日ころに、ぶどうを数個食べてみた感じ、糖度は上がってるものの酸味が薄く、結構焦っていました。
たぶん甘くて美味しそうな粒を無意識にとっていたのかもしれません・・
書き直す時間もないのでこのまま載せますが、その状況を踏まえて、この『ぶどう畑でのこと』の章をお読みください・・。
ここから↓↓↓
先月は、『雨があまり降らずぶどうには良さそう』なんて書きましたが、そうでもなさそうな感じになってきました。
まぁ、醸造は有旅ワイナリーの田中場長なので、最終的にはうまくやっていただけるでしょうけど👍
「そうでもなさそうな感じ」というのは、
有旅のピノ・ノワールを食べてみると、糖度はまだ15度前後なのに、酸味があまり感じられなくなっています。 夜間の温度もそこまで下がらず、酸が分解されるペースが進んでいるのでしょうね。
【良いこと】
・陽照時間がのびる → 合成糖量が増える
・障害雨が少ない → ベト病の発生率が低い
・土壌が乾きやすい → 根の活性が上がり、根づきの良い植物に
【悪いこと】
・夜間の温度が高くなる → 酸分解が進む
・糖度だけ上昇 → 味が中守糖的でメリハリとした内容に
・ピノのように、光合成糖量より酸の保持が問題の品種は特に向かない
病気になりづらくてよい反面、ピノ・ノワールのような繊細な酸が売りの品種にはなかなか難しい気候となっています。
このまま糖度だけ上がっていったら、酸の支えを失った「ボンヤリ味」のピノになってしまいそうで、少し不安になります。
反面、今年のように、長期間の晴天、十分な陽光、高温が続いた年は、七二会のメルローのような厚くしっかりした品種の方が有利な環境です。
そして、それぞれの品種に合わせた徐葉というのもあります。
詳しく見ていきましょう!
🍇 ピノノワールの徐葉
基本方針:
ピノノワールは果皮が薄く、日焼けや水分過多による裂果に弱いため、慎重で控えめな徐葉が基本です。
徐葉のタイミング:
ヴェレゾン前(着色前)には徐葉をほとんど行わないか、ごく軽く透かす程度。
着色が始まり、果実の柔らかさが増してくるタイミングで、風通しを目的としたごく軽い徐葉を行います。
面ごとの対応:
東側:朝日が入りすぎると早朝の低温で裂果リスクがあるため、やや葉を残し気味に。
西側:夕陽による果実焼けリスクがあるため、西日はなるべく防ぐ。徐葉はほとんど行わず、笠かけで遮光することが多い。
目的:
風通し改善(灰色カビなど病害防止)果実の早期熟度(糖度)促進は狙いすぎない。むしろ酸の維持が目的。
🍷 メルローの徐葉
基本方針:
メルローは果皮が厚めで日焼けや裂果にある程度耐性があり、積極的な徐葉が可能。
徐葉のタイミング:
ヴェレゾン前後(色づき始め)で、果実の露出を狙ってしっかり徐葉を行う。
面ごとの対応:
東側:朝日で果実温度が早く上がり、熟度が進みやすい。除葉をしっかり行い、果実露出を確保。
西側:西日が強すぎる場合は、軽く影を作る程度に除葉
目的:
果実の露出による着色とフェノール成熟の促進
熟度バランスを取り、収穫時の風味の複雑さと濃縮感を高める
ピノ同様、風通し改善(灰色カビなど病害防止)
ピノノワールは他の品種に比べてもクローンごとの性質差が非常に大きく、ワインのスタイル設計に直結します。
有旅圃場にも数種類のクローンが植わっています。
※ぶどうにおける クローン(clone) とは、同じ品種の中で、挿し木や接ぎ木で増殖された「遺伝的にほぼ同一の系統」 のことです。
ピノノワールのような古い品種は、長い年月の中で自然に 突然変異 を繰り返してきました。
農家や研究機関はその中から
・病気に強い系統
・香りや色が優れている系統
・収量が安定している系統
などを選んで挿し木で増やし、「クローン」として登録しました。
つまり、自然な変化の中から人が選び出した “品種内の個性違い”の事です。
有旅圃場にもクローン違いの木があるといいましたが、見た目でも大きく変わります。
🍇 ギチギチ・小粒系(果粒が小さく、房も詰まり気味)
→ 果皮比率が高いため色が濃く、タンニンも出やすい。ただし日本の多湿環境では灰色かびリスクが高まるので注意が必要。
🍇 バラ房・大粒系(粒が大きく、房がややゆるめ)
→ 日本のように雨が多い地域では、房内の通気が確保しやすい。酸保持も良い。色はやや淡めになることが多い。
これらのぶどうをうまく組み合わせてバランスを取り、質の良いワインを作るのが醸造化の腕の見せ所なのです。
ピノ・ノワールは、他の赤品種に比べても、本当にいろいろな表情のワインがあると思います。
個人的な感覚ですが、
エレガント系🌹 → 赤果実・花・酸の透明感🧂
骨格系 💪→ 黒果実・スパイス・タンニン強め
旨味・お出汁系 🍄→ キノコ・出汁・熟成感
果実味リッチ系 🍓→ ジャム・樽香・まろやか
ミネラル冷涼系🧂 → 酸高め・鉄っぽさ・硬質
のような感じでしょうか・・?
日本のピノ・ノワールは、旨味・お出汁系が多い気がします。
もちろん作り手さんによっても全然違いますが。
そして個人的には、
『フェミニンで香りに張りがあり、肉感的なスタイル』のピノノワールが好きです。
ここからは完全に僕の妄想の世界です。
学校で習った事と調べたことだけで語ります。
実体験でも何でもない机上の空論ですのでツッコまないでください(笑)
🔧 有旅版「エロティックピノ」の設計戦略
① 香りの“官能性”を引き出すために:
要素 方法
クローン 115, 777, 943が理想。大粒系ではやや弱い。
→ 現在の大粒クローンであれば、低収量+抽出調整で補う。
全房比率 30〜50%程度で、茎由来のスミレ・バラ・スパイスを抽出
発酵温度 20〜24℃:低すぎると香りが弱くなる。やや高めでフェロモン的香気を引き出す
マセラシオン 10〜14日:タンニンではなく香気成分の浸出が狙い。果皮コンタクトが鍵
酵母 野生酵母または香気高めの酵母(ex: RC212)
熟成 バリック10〜12ヶ月、新樽比率0〜20%(樽香が果実の官能性を引き立てる)
熟成容器 フレンチオーク(アリエ or ヴォージュ産)
② テクスチャーを“エロティックに”するために:
ポンピングオーバーは穏やかに、ピジャージュも手作業で圧をかけすぎない
残糖ゼロにせず、ごくごく微細に1〜2g/L 残す設計も手(自然な甘みが滑らかさを補う)
酸をなめらかに仕上げるため、マロラクティックは100%実施。ただし過熟しすぎないよう収穫注意
③ 醸造設計のイメージ(まとめ)
工程 内容
除梗 50〜70%(残りは全房)
マセラシオン 12日程度、冷温2日+発酵10日
酵母 野生 or RC212
発酵温度 20〜24℃
熟成 古樽+新樽(フレンチオーク)10ヶ月
新樽比率 25〜30%(ヴァニラやスモークの甘艶感)
清澄・濾過 最小限またはなし
こんな感じですが、取り留めなくなってしまいましたし、たぶん何を言っているのかもわからないと思うので、このへんでやめます(笑)
家の畑でゴーヤが一株だけなのに食べきれないほど大量に採れるのですが、
ゴーヤは完熟した中の赤いゼリー状のものが甘くて美味しいということで、収穫後追熟してみました。
おもしろいもので、少し黄色くなったゴーヤを収穫して置いておくと、
どんどんオレンジ色が濃くなり、
勝手に果肉が割れて、種を放出しようとまるで生きているかのようにゆっくりと裂けてきます。
さて、野菜や果物は、追熟するものとしないものの2種類に分けられます。
追熟型(climacteric):収穫後にもエチレンガスを出して代謝が続き、熟成が進む果物。収穫タイミングと食べごろが異なることが多い
と
非追熟型(non-climacteric):収穫時点が品質のピーク。収穫後に風味が向上しないものを指す
です。
そして、ゴーヤは非追熟型(non-climacteric)なのがおもしろいところ。
その理由は、収穫後に食味(苦味や糖度、栄養価)が大きく向上するわけではなく、熟度のピークで収穫するべき作物だからだそう。
ちなみに、スイカも、朝に収穫後、しばらく糖の安定を図るために、涼しいところで保管をしますが、こちらも非追熟型(non-climacteric)とのこと。
逆に、うちでも育てているトマトは、収穫後にも条件次第では青いトマトが赤くなるので、こちらは追熟型(climacteric)だそうです。
ただし、光合成による糖の新規生成はほとんどないため、糖の絶対量は増えません。
そして、川中島で作られている桃もご存じの通り追熟型(climacteric)になります。
ちなみに、桃も、柔らかくなると甘みが増しているように感じますが、
糖の絶対量が増えているわけではありません。
🍑
★ 🍑桃の追熟による主な変化
項目 | 追熟による変化の有無 | 説明 |
エチレン生成 | あり(大量) | 呼吸量も増大。追熟型の特徴。 |
色の変化 | あり(赤み・黄み) | アントシアニン、カロテノイドの合成 |
糖の量(Brix) | ほぼ変化なし | 光合成が行われず、新たな糖は作られない |
酸の量 | 減少する | クエン酸・リンゴ酸が分解され、酸味がまろやかに |
食感 | 柔らかくなる | ペクチン分解によるもの |
香り | 強くなる | 香気成分が増加 |
「甘くなる」と感じる理由(≠糖が増える)
追熟によって糖度が増しているように感じるのは、以下の相対的・官能的要因によります
酸味の減少:酸が抜けると、糖が相対的に際立ち「甘く感じる」。
香りの増加:芳香成分(ラクトン類など)が増えると、味覚的な甘さと相まって風味が豊かになる。
食感の変化:柔らかくなると甘味が口中に拡がりやすく、甘く感じやすい。
そんな感じで、桃が追熟で甘くなると思われるのは、気のせい(というか感じ方のせい)だそうです。
おまけ。
バナナや渋柿は追熟で実際に糖が増える例外?だそう。
これは、
渋柿には収穫時点で可溶性糖が少なく、代わりにデンプンが多い
追熟中に果実内部の酵素(アミラーゼ)がデンプンを加水分解 → グルコースやフルクトースに変換
その結果、糖度(Brix)が実際に上昇する
という原理だそう。面白いですね。
(2025/08/31掲載)
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