伝統と革新をつなぐフラワーデザインの世界
島田俊仁さん
花職人しまだ 有限会社シマダ生花・社長
真田十万石の城下町の面影が残る長野市松代町の街道沿いで、四季折々の花が店頭や店内を彩る「花職人しまだ」。有限会社シマダ生花・社長の島田俊仁さんは、2024年に「信州の名工」に選ばれた実力者です。
文・写真 吉田 淳子(株式会社ビー・クス)
創業は昭和27年頃、シマダ生花は松代町に唯一残る、創業75年ほど経つ老舗の生花店。しかし創業時の本業はなんと菓子店で、「店の脇にちょっと花を置いてみた」程度から始まったそうです。
「創業時のことは記録がないんです。本当に狭い三軒長屋の一部でやっていたので、屋号すらあったかどうかもわかりません」
そう話す二代目の島田俊仁さんは幼いころから、繁忙期になると家業の手伝いをしていたそうです。いずれは店を継がなければいけないだろうと意識する中で、大学では「造園」を専攻。卒業後は造園の設計の仕事に携わる予定でしたが、卒業を目前に先代が体調を崩したため、急遽家業を継ぐことに。内定していた造園会社への就職を断念し、半年間は松代から夜行列車で東京の大学に通いながら、勉学と家業の両立に励んだそうです。
「親父の背中しか知らなかったから、造園の勉強は新しい切り口で新鮮でした。同じ『植物』を使ってのことだし、ヨーロッパの造園デザインもフラワーデザインの世界も黄金比率の近似値で、バランスの理論は共通なところが多いんですよ。自分ではそう理解しています」
家業を継いでからも学びには意欲的だった島田さん。包装材メーカーなどが主催するフラワーデザインの講習会に参加した際、講師から「セオリー通りではないけれど良いですね」と褒められたことをきっかけに、県内外のコンテストに積極的に出場するように。少しずつ賞も獲得できるようになり、経験値を積み上げていきました。
県内だけでなく、芸能人が司会をするような全国の大会にも出場しました。残り10人まで勝ち抜いたら、360度から観客に見られるステージでパフォーマンスを競うといった、過酷な競技もあったそうです。マネキンと布地が渡されて、制限時間内にドレスを作ってそこに花を飾る、という課題があったことも。「良い評価」が欲しくて貪欲に頑張ってきた島田さんですが、ある時からふと考えが変わったといいます。ブライダルブーケのコンテストでのことでした。
「作品が出来上がった瞬間に、もう自分の中でやり切っていて。評価されてもされなくてもいいやと思えたんです。結果的に1等賞いただいたんですけどね」
以降、競技では「ぼくの意図を審査員が理解できるかな」と、審査員との勝負のように考えるようになりました。逆に審査員としてコンテストの評価をする側になった今では、「この人は何を表現しようとしているのか」ちゃんと読んで、その「意図」に基づいて評価をするよう意識しているそうです。
以前は同じ町内の別の場所で営んでいたシマダ生花店でしたが、1998年長野冬季五輪開催の年に現在の場所へ移転したのを機に、店名を変更しました。
「デザイナーじゃなくて職人だよ、という気持ちから『花職人』とつけました。当時はヨコ文字の店名が流行していましたが、松代という城下町の雰囲気に合わせて、町になじむ『和モダン』な感じにしたかったんです」
あらわしの木材と生成り色の塗り壁が印象的な店舗の外観も、なるほど松代の町並みに程よく溶け込み、地域の景観を彩っています。
同店のすぐ近くにある老舗の和菓子店「かどや」の店頭の一角に、ガラス張りでミニチュアの和室のようなしつらえのスペースがあります。そこにはいつも季節の花が美しく生けられていて、信号待ちをするドライバーや町を歩く人の目を楽しませています。これは島田さんがライフワークのように、30年以上毎週生け続けている花飾りだそうです。
「毎回季節の花ってわけじゃないけどね。季節感を出したり、あえて出さなかったり」
最近、東の向かいにあった建物が解体されて空き地になったおかげで、朝日が強く当たるようになったとか。花の「持ち」が格段に悪くなって、少し困っておられるようです。
色彩学で色はRGBで考えますが、花の世界の色彩は、作った色ではないので複雑だそうです。同じ品種でも生産者によって、また収穫時期によって色が違うので、厳密な色合わせは不可能。チューリップなどは一時間後には形が変わってしまうし、つぼみが開いたら色も変わってくる。全く同じものを用意しても色が違ってしまうため、花飾りはいわば「瞬間芸」のようなものだと島田さん。
「写真撮影のために用意する花は、シャッターを切るその瞬間が一番大事だし、パーティーや式典用の花なら、その時間が最高でありたい」
加えて、植物はみんな違うので、一本一本の花の持っている表情の、一番いい表情を見せたいと語ります。曲がっている枝の先端をどう見せるかで、生き生き感が出るのか、元気がなく見えるのかが決まります。また、透け感のあるデザインをする時には、向こうから見てどう見えるかを意識して作っているそうです。「見返り美人」をイメージして、後ろ45度ぐらいから見てきれいな後ろ姿に見えるように花を生けることも。これは理論というよりも、ご自身の経験の中で身につけた感覚、技術だそうです。
現在は職業訓練指導員として後進の指導に力を注ぎつつ、地域の小中学校に出向き、子どもたちに自由に花を生けてもらう「花育」を実施している島田さん。小学生の授業では、スタッフが寸劇のような形でお客さん役と店員さん役をやってみせ、要望に合わせながらつくる花束の作り方を見せてから、みんなでアレンジメントに挑戦してもらっているそうです。
「今はスマホなどデジタルの世界が生活の中心になっていて、子どもたちが『生の花』に触れる機会はなかなかないでしょう。スマホで『花の写真』を見ればいいのでなく、本当の『生の花』に触れてもらいたい。花を一本、一輪でいいから挿して、眺めて愛でる気持ちが生まれてくれればいいなと思います」
2024年「信州の名工」に選ばれても奢ることなく、最前線で動き、学び続ける島田さん。「花職人」としての誇りを胸に、これからも生花の世界の発展に貢献されていくことでしょう。
(2026/03/30掲載)
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