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善光寺門前で150年以上。老舗書店が紡ぐ本と珈琲と人のご縁

長野西澤書店 門前えにし珈琲さん

メインビジュアル

善光寺の仁王門からほど近い石畳の参道沿いに、歴史を感じる和の風情とほんのりモダンな雰囲気が融合したすてきな建物があります。ここは、150年以上まちの本屋として親しまれてきた場所。その歴史ある書店が2024年、装いを新たに「長野西澤書店 門前えにし珈琲」として、本と珈琲を楽しむ「ブックカフェ」に生まれ変わりました。

文・写真 碓井 綾乃(文) 吉田 淳子(写真)(株式会社ビー・クス)

江戸から令和へ。書店が挑んだ新しい形

西澤書店の前身は、江戸時代末期にさかのぼります。当時は「松葉軒」という屋号で、善光寺の参拝者に向けて、境内や宿坊の様子を細かく描いた版画地図を露店で販売していたそうです。ガイドブックも観光情報誌もない時代に、自ら版木を彫って刷ったその地図は、参拝者にとって貴重な情報源だったことでしょう。当時から早くも“情報を届ける場”としての役割を担っていたことがうかがえます。
 

当時販売していた善光寺境内の版画地図が、店内に飾られています

やがて「西澤書店」へ屋号を変え、一般書籍の販売に加え、長野県内の小中高校教科書の制作、また長野県唯一の官報販売所として公告・官報の取り扱いも行うなど、長年にわたり地域に根差してきました。
 

しかし近年は、人口減少や出版不況、書籍のデジタル化やネット販売の拡大などにより、市内の書店が次々と姿を消す状況が続いています。西澤書店の代表取締役社長・西澤基喜さんも「本屋業だけでは立ち行かなくなる」と危機感を抱き、10年ほど前から新たな業態を模索していたと言います。

「構想を練る中で全く別の業態にすることも考えましたが、私たちは本を通じて情報を発信してきたという役割に立ち返った時、そこを失ってはいけないなと。『門前町』という立地の良さも生かし、観光客にもまちの人にも気軽に足を運んでもらえるブックカフェへのリニューアルを決断しました」
 

長野西澤書店4代目の西澤基喜社長

色とりどりの御朱印帳が迎える、和モダンな書店に

2023年9月からリノベーション工事を開始。リニューアルにあたっては、天井の太い梁や電気配線の「ガイシ」など大正時代の趣を残しつつ、入口の壁を取り払い、開放的で気軽に立ち寄れる和モダンな雰囲気を目指したそうです。
 

当時からの梁を一部あらわしにした天井。どっしりと歴史の重みを感じます

圧巻なのは、入口付近の棚にずらりと並んだ120種類以上の御朱印帳。ライトアップされた木の棚に並ぶ色とりどりの表紙は、通りからもよく見え「なんのお店だろう?」と、つい立ち寄りたくなります。門前町ならではの仕掛けが効いています。
 

入口付近に並ぶのはすべて御朱印帳!可愛い柄から荘厳な柄まで県内随一の品揃え
最近人気の「御城印」帳も。トレンドをいち早く発信します

間接照明のもと、心地よい音楽が静かに流れる店内は、おしゃれで落ち着いた空気が漂います。奥に進むと、フロアにはデコレーションケーキのようにレイアウトされた本があちこちに。西澤社長は言います。

「本を選ぶときには、まず表紙を見るじゃないですか。表紙が見えたら手に取りやすくなるし、本とのワクワクする『出会い』を楽しんでもらいたいんです」
 

楽しい表紙のディスプレイが、さまざまな書籍との「出会い」を広げる

スタッフがセレクトした幅広いジャンルの本が並ぶ

門前えにし珈琲の特徴の一つが、書籍ジャンルの幅広さ。本の在庫は以前の1/4ほどに絞られているそうですが、常連客の傾向や街並みに合った品揃えを残すことで、まちの本屋としての魅力を引き継いでいます。さらに本の仕入れは特定の担当者に任せず、スタッフ全員で行っているのだとか。旅や暮らし、ものづくりなどスタッフそれぞれが自由にコーナーを作り、自分の世界観で本を並べています。ほかでは見られないジャンルや昔懐かしい漫画などもあり、訪れる人は本と「出会う」楽しさを感じられます。
 

スタッフの趣味趣向が光る一例「ガン活」コーナー

スタッフは前職も多様で、美容師やアパレルなどさまざまなバックグラウンドを持っているといいます。異なる経験を持つメンバーの視点が、独自の文化や装飾のアイデアを生み出し、門前えにし珈琲ならではの多彩な書籍と空間作りにつながっているようです。
 

誰もが気軽に立ち寄れる場所として

店の奥には10人ほどが座れるテーブル席と、階段状のくつろぎスペースが設けられています。

「この辺は、ふらっと立ち寄れるカフェが意外と少ないんです。駅から善光寺は坂道になっているし、ここを休憩場所にしてもらいつつ、本に触れてもらうのが良いと思いました」
 

テーブル席の向こうには自由にくつろげる階段状のスペース。漫画や子ども向けの本、トミカまでが並ぶ

階段に腰を下ろして読書に没頭したり、友人と本について語り合ったり、参拝の行き帰りにホッと一息ついたりと思い思いの時間を過ごせます。店内の書籍は、どれも立ち読みOK。コーヒーを飲みながら、気になる本を手に取れるのもこのブックカフェの醍醐味です。
 

ゆったりとくつろげる気遣いが随所に

本との「相性の良さ」を極めた一杯

西澤社長はブックカフェで提供するコーヒーとして、「本を読む時間に寄り添う味」をテーマに、何種類も飲み比べをして納得の一杯にたどり着いたそう。酸味や苦味のバランス、飲んだあとの余韻にまで気を配り、しっかりとした味わいがありながらも後味はすっきり。長く本を読んでいても口の中に残らず、ページをめくる手を妨げないオーガニックコーヒーです。実際、コーヒーが苦手だったお客さまが「これなら飲める」と喜んだエピソードもあるほど、やさしくも力強い味わいになっています。
 

オリジナルブレンドのオーガニックコーヒーは、すっきりとした後味が特徴

ほかにも信州の味覚を味わえるジェラート、門前ならではの甘酒などバラエティに富んだカフェメニューも展開。ここでのひとときを、さらに豊かにしてくれます。
 

店名「えにし」に込めた想い

「えにし」とは、“縁”のこと。参拝者、観光客、地域の人々…。これまで受け継がれてきた歴史やさまざまな人との“ご縁”を大切にしたいという思いが込められています。
 

ここは単なるブックカフェではなく、長年続いてきた書店の記憶を未来へとつなぐ場所。風情ある建物、書棚に並ぶ御朱印帳や本、そして香り高い珈琲。それらが出合いのきっかけとなり、人と人、街と文化が交差していきます。江戸の昔から続く歴史を背負いながら、今の時代にあった形で文化を育んでいく―。門前えにし珈琲は、そんな願いを映し出す場となっています。
 

会える場所

長野西沢書店 門前えにし珈琲

長野市長野大門町66-1

電話:026-233-3185

Instagram:https://www.instagram.com/monzen.enishicoffee

Instagram:リンクはこちら

X(twitter):https://twitter.com/enishi_coffee

X(twitter):リンクはこちら

ホームページ:https://nishizawa-book.co.jp/

ホームページ:リンクはこちら

営業時間:10:00~17:00
※カフェは16:30ラストオーダー
定休日:なし

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