FEEL NAGANO, BE NATURAL
FEEL NAGANO, BE NATURAL
T0P

ながのを彩る人たち

待つことが、楽しみになる空間

鈴木さん

I'm waiting(アイムウェイティング)

メインビジュアル

2023年、JR長野駅から徒歩5分ほどの場所に、都会的な雰囲気と小粋な存在感を放つ個性派のカフェがオープンしました。「I'm waiting(アイムウェイティング)」。その独創的な店名からも、信念をもって店を営む店主の思いが伝わってくるようです。

文・写真 島田 浩美

ひとりでも居心地のよい、開かれた空間

長野駅前から長野バスターミナルへと続く広い通り沿い。八十二銀行本店の向かいに立つレトロな風情のビルに、大きな看板はなくても、きっとここが目指す店だとピンとくるはず。ガラス張りの大きな窓からは室内に明るい陽光が注ぎ、夜は窓から漏れる室内の明かりが周囲を照らす。そんな安心感ももたらすような佇まいの空間は、まさに窓に記された「I’m waiting」の文字通り、待ち合わせにも最適な場所であることが伝わってきます。
 

タイルが印象的な昭和レトロな雰囲気も感じられる建物
夜も店内の様子がよく見える路面の開かれた空間

「ターミナル通りって本当にきれいな通りだと思うんです。毎日決まった時間に通るオフィスワーカーと、目的がないと通らない道。雑多な看板がある繁華街と違い、視界に余計なものが入ってこないのがいいですよね。長野駅から少しだけ歩きますが、行きたいと思っていただける人が来てくれたらいいなと思って」
 

立地選びについてこう話すのが、扉を開けた先で迎えてくれるオーナーの鈴木さんです。店内は1階と2階があり、どちらも広い空間ながらカウンター席もあって、ひとりでも過ごしやすい雰囲気。同時に、シンプルながらも洗練された北欧家具や、カウンターに設置されたModbarのエスプレッソマシンなど、随所に光るセンスがこの空間で過ごす特別感を高めてくれます。
 

ラ・マルゾッコの特注色のエスプレッソマシン(写真提供:I'm waiting)

また、1階のバーカウンター越しの壁にはアルコールがずらり。
 

「メニューは自分が飲みたいものと、それに合わせて食べたいものを揃えています。クラフトジンは約80種類ありますが、テキーラは2種類しかありません。好きなものは語れるし、自信をもっておすすめできますから」
 

嘘のない実直な言葉の端々から、真摯に店づくりに向き合う鈴木さんの人柄が感じられます。
 

入りやすいガラス張りで、中の様子が見える間口の広い路面の1階(写真提供:I'm waiting)
カウンター席を中心としたレイアウトで、左のバーカウンターの先にアルコールが並ぶ
クラフトジンは市内屈指の品揃え。長野県産も豊富に揃う(写真提供:I'm waiting)

待ち合わせの場所、待っている場所

長野市で生まれ育ち、高校卒業後、建築系の大学を目指して通っていた予備校時代に飲食業への興味を覚えたという鈴木さん。きっかけは、受験勉強の厳しさを痛感しつつあったなか、家族旅行で訪れたアメリカ・ラスベガスの華やかなホテルの光景に心を奪われたからだそう。結果的に大学進学を諦め、ホテルの専門学校に進む進路を選択したと言います。
 

「授業中に建築系雑誌『Casa BRUTUS』を隠し読みするほど建築が好きでしたが、夏前には予備校を辞め、長野駅前のコーヒーチェーン店でアルバイトを始めました。そのときのさまざまなコーヒーやドリンク作りの経験が、今の原点です。毎日が楽しく、仲間にも恵まれたことで、飲食業のなかでも飲み物を生業にしようと目指す方向性の大枠が決まっていきました」
 

(写真提供:I'm waiting)

以来、約20年間、飲食業ひとすじ。専門学校卒業後は東京の帝国ホテルに就職し、グランメゾンの給仕とバーテンダーの下積みを経験。接客とサービスのスキルを磨きました。
 

長野市に帰郷したのは2011年。東日本大震災がきっかけです。善光寺門前のレストラン兼結婚式場「THE FUJIYA GOHONJIN」に就職し、系列の洋菓子店「HEIGORO本店」も含め、約10年間、バーテンダーやソムリエの経験と資格を生かして料飲部門で働きました。善光寺御開帳の開催期間中などは、まちのにぎわいに合わせて建物前でドリンクを販売したりと、さまざまなチャレンジも経験。有意義な10年間を過ごしたと振り返ります。
 

こうして2023年、「いずれは」と考えていた独立開業を決意。決め手はどうやら大きな失恋だったそうですが(そんな話も正直に語ってくれる鈴木さんの誠実さと懐の深さが伺えます)、失恋の熱量を起業に注ぎ、2023年7月、「I’m waiting」をオープンさせました。
 

「待ち合わせの場所」と「ここで待っている」の意味を店名に込め、大きな窓にはこんなメッセージを掲げています。
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
A place to meet
 
Meeting up with someone you care and going on a date
Enjoy an aperitif before heading to the restaurant for dinner
Get dressed in the powder room while you wait for your loved one
Do some writings or read a book when arriving little early
 
A place where you can make your time of “waiting” enjoyable.
 
Let’s meet up here.
 
I’m waiting.
 

(訳)
待ち合わせの場所
 
大切な人との待ち合わせ
カフェで集合してデートが始まる
ディナーの前にアペリティフを一杯楽しんでレストランへ向かう
大切な待ち人を待つ間にパウダールームで身なりを整える
ちょっと早めに着いて、書物をしたり本を何ページか読み進めたり
 
さまざまな“待つ”が楽しみになる時間と場所
 
ここで合流しよう。
 
私はここで待っているよ。
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・

新鮮さも経年変化も大切に

「でも、ただ待つ時間って結構しんどいものですよね。スマホを見ながら時間の経過を待つのは味気ないですし」
 

そう話す鈴木さんだからこそ、店内には待つことにも心地よさを感じるような配慮が見られます。季節ごとの花々や、ゆったりと配置された2階のテーブル席。通りを行き交う人や屋外の様子を眺められるカウンター席。椅子は「スタンダードチェア」など数多くの名作を残したフランスのデザイナー兼建築家、ジャン・プルーヴェのもので、建築に興味があったという鈴木さんらしさを感じさせます。さらに、ロイヤルコペンハーゲンの食器に、クリストフルのカトラリー。審美眼によって選ばれた一つひとつが、この空間をつくるために意味のあるものだと語るようです。
 

「備品は、経年劣化ではなく経年変化を楽しめるものを意識して選定しています。30年経っても、50年経っても魅力が深まるもの。働き手として、日々の大半を過ごす環境は妥協できなかった点です」
 

テーブル席やソファ席もある2階
ロイヤルコペンハーゲンの器で提供される季節ごとのスイーツ。写真はマダガスカルバニラのパンナコッタ(写真提供:I'm waiting)
大きな窓から通りを見渡せる

提供するメニュー自体も、他店で飲食できるものやSNSで話題のものなどには特に興味がないのだそう。あくまで自分の好みに忠実に、訪れた人に新鮮な驚きを与えられるようなものを考えています。その分、素材にかけるコストと手間は惜しみません。
 

「提供したスイーツやドリンクでお客さまの口元が緩むのを見るとうれしく、やりがいを感じます。家族や大切な人に食べさせたいと焼き菓子をテイクアウトしてくださるのもありがたく、変なものは作れないなと気が引き締まりますね。ちょっとお待たせしてしまうシーンが多いので申し訳ないのですが、ゆっくりしてもらえるとうれしいです」
 

そんな配慮も踏まえ、サービス面では、あえて前会計に。それにより、来店する一人ひとりと向き合い、会話をしながらリクエストや趣向に寄り添う姿勢を大切にしています。
 

焼き菓子はテイクアウトも人気(写真提供:I'm waiting)
リピーターも多いことから、訪れるたびに新たな楽しみが与えられるよう、メニューの季節感も大切にしている(写真提供:I'm waiting)
季節の野菜を使ったちょっと大ぶりなキッシュは軽食にも(写真提供:I'm waiting)

さらに特筆すべきが、日曜・祝日以外は、なんと平日も朝10時から深夜24時までの通し営業であること。個人店でこの営業時間の長さは、他店ではなかなか見られません。「長野の若者が遊べるお店になりますように」との願いが込められているそうで、鈴木さんの店づくりへの心意気が感じられます。
 

「この仕事は楽しいに尽きますが、何よりお客さまにとって、ここで過ごすそれぞれの時間が有意義になりますように」
 

こうした心配りが、リピーターの多さにもつながっているのでしょう。一度訪れた人が次の人を招き、ここで待ち合わせをしたくなる。そんな緩やかな循環が、この空間から生まれています。
 

会える場所

I’m waiting

長野市中御所218-15

電話:026-262-1525

Instagram:https://www.instagram.com/cafe.imwaiting/

Instagram:リンクはこちら

営業時間:10:00~24:00(日曜・祝日〜18:00)
休:不定休

前の記事:

移住、そして定住

次の記事:

目指せ桃農家!Uターン女子の奮闘記(2025.4)