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ナガラボはながのシティプロモーションの一環です

No.330

小川

晃侍さん

写心工房 季風音(きふね) 写心師

枠にとらわれぬ独自の視点を。
心で写す 心を写す「写心師」

文・写真 合津幸

絵画と写真の世界の融合

「写心師」小川晃侍さんが選ぶ被写体は、身近な草花・雄大な自然風景・人物など、自然と人を中心とした小川さん自身が心揺さぶられるもののみ。独自の視点に立ち、自らの目で見て心で感じることを大切にしています。

初めてカメラを手にしたのは10歳の頃。自宅で飼い始めた野良犬に子どもが生まれたため、お父さんのカメラを借りて撮影を試みたそうです。写真の道を本気で志すようになったのは、それから8年後のことです。友人と出掛けた軽井沢への旅行での何気ない行動がきかっけでした。

「友人の一人が持参した一眼レフを借りて、皆で何枚かシャッターを切ったんです。当時はまだフィルムカメラですから旅行から帰って現像したところ、私が撮ったものだけがボケていたんです…それがものすごく悔しくて。その時、『もっと上手く撮れるようになりたい』と、写真を学ぼうと決意しました。もともと自分の知らない世界について調べたり勉強することが好きだったので、技術を一から学ぶのは楽しかったですね」

ただし、それ以前は「絵が好きで、将来は画家になりたいと考えていた」と語る小川さん。今でも作品に影響を与えるのは写真よりも絵画作品の方が圧倒的に多く、信濃美術館をはじめ美術館やギャラリーによく足を運ぶそうです。

そこまでおっしゃるのなら、絵に対する未練や多少なりとも後悔の念のようなものがあったのでは? と、疑問を投げ掛けてみました。

「それがまったくなかったんです。おそらく、私にとっては画家の道を諦めるとか捨てるとか、絵か写真かの二者択一を迫られているという感覚ではなかったのでしょう。絵画と共通する世界観を写真で表したい、そういう独自の世界観を持った作品を世に送り出したい。そんな想いだったのかもしれません。ですから、今でも参考にするのは絵画作品ばかりですし、写真を撮りながらも絵の世界にも触れているような心持ちなんです」

お気に入りのカフェの庭先で撮影した花。見過ごされてしまうような足下の草花にも目を向けている(写真提供:写心工房 季風音)

ここ1年は、同じ風景をまったく別の世界観を持つ作品に仕上げようと、新たな試みに挑戦している(写真提供:写心工房 季風音)

病と闘う日々に訪れた転機

現在、長野市若槻に「写心工房 季風音」を構え、愛機片手に大好きな戸隠や飯綱高原などに出掛けている小川さん。信濃町の黒姫高原や野尻湖周辺にも足を伸ばし、季節を感じる風景や心がグッと惹き付けられる一瞬を切り取ります。

そんな小川さんが、生まれ育った三重県四日市市を離れ、長野市に移住したのは2013年の6月のこと。移住のきっかけを与えてくれたのは、三重のローカル雑誌『NAGI—凪』に掲載された小川さんの作品を目にした、現住まいの大家さんでした。

「私の作品に目をとめて、プロフィール欄で長年闘病していることを知って気に掛けてくださったのですね。『長野市に空き家があるので、そこで暮らしてみませんか? 』と、連絡をくださったんです。突然のことで驚きましたが、作品を気に入ってもらえたことが素直に嬉しかったですし、病状が悪化していたため環境を変えたいという思いもありましたから、すごくありがたい申し出でした」

闘病というのは、家庭環境に恵まれず幼い頃から続いた抑圧や心身への負荷により20代半ばで発症したPTSD(心的外傷後ストレス障害)等との闘いのことです。小川さんは何十年もの間、心身の苦痛や発作の恐怖と向き合ってきました。

「申し出をいただいてから実際に移住するまでに約2年かかりました。さすがに慣れ親しんだすべてのものを手放してのリスタートには勇気が必要ですから。でも最後は変わりたいと思う気持ちが勝りました。それだけ苦しかったのだと思います。ただ、移住後1年ほどは新しい環境に慣れるのに必死過ぎて、ほとんど記憶がないんですよね…(苦笑)」

その後、少しずつ歩を進めて来た小川さん。四日市の気候と比べて、雪は多いけれど随分暮らしやすく感じられるうえ、季節の巡りがハッキリとしている長野市での日々は、小川さんをやさしく後押ししてくれます。この1年は特に、大きな変化が感じられるようになったそうです。

転機をもたらした『NAGI—凪』2011年春号(右)と再び小川さんの作品で巻頭特集が組まれた2012年春号掲載の様子

自然と人の心への小川さんの想いは、その温かな表情や「季風音」という工房名、写心師という肩書きにも表れている

長野で生きる、写真に生きる

小川さんに訪れた大きな変化のひとつは、パートナーである恵美さんとの出会いです。恵美さんの存在は、一人だとつい頑張り過ぎてしまう小川さんの心身を穏やかに保ってくれます。そして昨年、視野や思考を広げ、作品の幅をも広げるきっかけを与えてくれたのも恵美さんでした。

「彼女に『たまには行ってみましょうよ』と誘われて、苦手なファミレスに出掛けた時でした。ふとガラケーでコーヒーカップや彼女を撮影してみたら、思いがけず面白い写真が撮れて驚いたんです」

その時のハイキーで独特な質感のある、まるで水彩画のような写真に、小川さん自身も衝撃を受けました。「こんな撮り方があってもいい」と、世界がグンと広がったように感じました。

それ以来、以前にも増して自由な視点から被写体を捉えられるようになり、独自の感性や世界観を大切にする気持ちが強まりました。さらに、明度や構図を“スタンダード”から敢えて外す[見たままに撮らないこと]と[見たままに撮ること]の対比の面白さも感じられるようにもなったそうです。

「フィルムと違ってデジタルは安易にシャッターを押してしまいがちですが、できるだけ無駄打ちはせず、心に響くものや心で感じられる瞬間のみ写すよう心掛けています。光も自然光のみ、プリントする時はノートリミング。できるだけ調整も加えません。ちなみに、それが良いとか悪いということではなくて、私はこのスタンスで写真を撮り続けたいと思っている、という意味です」

今後は、個展を開いたり、人とのつながりを増やしたりして、長野市内外のより多くの方に作品を楽しんでもらいたい。そして、以前から取り組んできた自然保護活動にも力を注ぎたい、と夢を語ってくださいました。

今もなお病と闘い続けている小川さんですが、写真の世界も長野市での暮らしもすべて自ら選んだこと。その決断と決断を下した自分自身を信じて、前向きに進もうと未来を見つめています。

[取材協力:café中寿美]

恵美さんを被写体に携帯のカメラで撮影した作品。この色合いや質感との出合いが、小川さんの世界を広げてくれた(写真提供:写心工房 季風音)

(2016/06/30掲載)

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会える場所 写心工房 季風音(きふね)

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