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No.290

宮川

和工さん

社寺数寄屋建築文化財建造物設計/矢本八幡宮 宮司

宮司さんは社寺建築士
次の世代に歴史を繋ぐ

文・写真 安斎高志

巡り合わせに感謝しながら

「半農半X」をはじめ、世の中には二足のわらじを履く職業人が数多くいます。しかし、社寺建築の設計と神職という、ふたつの職業を持つ人は日本にどれだけいるでしょう。

長野市戸隠祖山にある矢本八幡宮の宮司、宮川和工(かずのり)さんは、社寺仏閣を専門に手掛ける建築士です。これまで、熱田神宮や永平寺をはじめとする社寺建築や文化財建造物の修理、耐震調査に携わってきました。

宮川さんの仕事に対する姿勢には、気負いがなく、自然体そのものです。

「僕が仕事をできるのはあと35年、70歳くらいまで。その35年の間で、修理が出る文化財ってリストアップしてしまえば、わかってしまうんですね。『あの寺を手掛けたい!』といくら強く願っても、今後40年、修理がなければ自分は関われないわけです。すべて巡り合わせなんですよね。だから、僕はあまり『これがしたい!』というものはなくて、仕事があることに感謝するだけですね」

一方で、社寺建築の道に入って10年が経ちましたが、どんどんおもしろみが自分の中で膨らんでいると笑顔を見せます。

「古い建物を手掛けだすと、昔の人はいろいろと考えるなあとしみじみ思いますね。人によって建て方が全然違うし、実測寸法の根拠を考え出すと、立てた大工さんと時間を超えて話しているみたいで、大変なんだけど、わくわくします」

何度も「こんなマニアックな話、興味ありますか」と尋ねながら、先人が残した構造美について熱く語ってくれた

社家に生まれて

矢本八幡宮は、平維茂が鬼女・紅葉征伐の際、その居場所を占うために矢を放った場所だとされています。この伝説の舞台は10世紀ですが、宮川家が宮司に就いたのは、宮川さんの曽祖父の代からです。

宮川さんは男ばかりの4人兄弟の長男。小さなころから、祖父母から神職を継ぐよう言われてきたため、いつかは実家に入るという思いは常に持っていました。しかし、帰郷を意識しだした26歳のころ、社寺建築の世界に出合います。

所属していた東京都の建築設計事務所で修道院の建設を担当した宮川さん。その物件が終わったら長野に帰る予定でしたが、施工を担当した伽藍工舎(横浜市)から誘われます。

「うちで働いてから帰りなよと言われて。それまで社寺建築の世界を目指していたわけではないんですけど、一緒に手掛けた現場がおもしろかったので、そのままその会社に入りました」

宮川さんは男ばかりの4人兄弟の長男。小さなころから、祖父母から神職を継ぐよう言われてきた

入社した伽藍工舎は宮大工約30人を抱え、大きな寺社の新築、改修の設計を手掛けていました。そこで過ごした6年間で、宮川さんは神職を務めながら、社寺建築の道を進むことを決めます。

平成24年には、社寺建築の名門、伊藤平左エ門建築事務所に入社。週の半分を長野、もう半分を同社の事務所がある東京と名古屋で過ごすという生活をスタートさせました。

「日本でも有数の有名な事務所なので、一度はその世界を覗いておきたかったんです」

2年間で、先に挙げた熱田神宮や永平寺のほか、円覚寺の防災設備計画や大神神社の修理工事などにも携わりました。その間、神職の資格も取得し、二足のわらじの準備は着々と整っていきました。

高台にある矢本八幡宮の境内より。ここから平維茂が天に向かって矢を放ち、鬼女の居所を突き止めたという

神職は究極のサービス業

伊藤平左エ門建築事務所に在職中の平成25年、矢本八幡宮の宮司に就任。設計業の方は、その翌年となる平成26年に独立しました。

社寺建築と神職の世界は、時間の流れ方が似ていると宮川さんは話します。

「33歳の時に宮司になったんですが、30年やって63歳になったときに、息子に代替わりできたらいいなと思っています。それは長い歴史のほんの30年の橋渡しでしかありません。一方、文化財の建物も、よほどことがないかぎり、なくならないものです。僕が生きている間にできることは、ちゃんと修理して次の代に渡すことくらいなんです」

肩肘張らない言葉が並びますが、建築と神職、いずれの仕事について語るときも、表情は生き生きしています。

「せっかくだから」と、筆者のこともお祓いしてくれた。神職の勉強を始めてから10年が経過した

「神職は究極のサービス業だと思っています。集落全体のために、地域が栄えて、子孫がどんどん繋がっていくということを祈っているわけですから」

宮川さんの名前には「宮」と「工」が入っています。ビジネスネームではなく、本名です。本当にたまたまなんですが、と言いつつ、巡り合わせに感謝する宮川さん。先人が描いた曲線美を図面に落としながら、笑顔でつぶやきます。

「こんなにおもしろいことが仕事になるんだから、ありがたいですよ」

古い社寺は設計図が残っていることの方が少ない。現地で手書きの図面を作成し、CADで製図する

(2015/11/27掲載)

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会える場所 矢本八幡宮
長野市戸隠祖山1730-1
電話 026-252-2057
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