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No.286

宮崎

充朗さん

柄木田製粉株式会社 取締役/製造本部長/品質保証室室長

個性豊かな県産小麦粉の地産地消を促し、郷土の食文化・土地・農業を次代に残そう

文・写真 合津幸

長野市篠ノ井に本社を構える柄木田製粉株式会社。家庭でおやきやうどん等の粉食を楽しまれる方には、特になじみのある名前だと思います。今回は、その柄木田製粉の取締役であり、カルチャーセンターや各種イベントでパン教室、手打ちうどん・蕎麦講習会、おやきづくり体験講師も務めている宮崎充朗さんを訪ねました。

長野県唯一の小麦粉製粉会社

「地粉というのは、その地で栽培された小麦をその地で製粉しているもののこと。当社は現在、長野県唯一の小麦の製粉会社ですから、私たちが守らねば地粉はなくなってしまいます」

昭和50(1975)年入社、今年で勤続40年を迎えた宮崎充朗さんは力を込めて語ります。

千曲市の旧戸倉町にある宮崎さんの実家は、米にはじまりさまざまな野菜や果物を出荷する農家です。学生時代は畜産に関する学問の中でも動物の栄養学を学んだそうです。柄木田製粉入社後の約30年間は品質管理や生産管理、技術指導の任務に就き、後の10年は小麦の生産、商品開発、生産設備の導入・管理などを担ってきました。

「実家が農家なので、幼い頃から農業や食が身近な存在でした。学生の時に学んだ栄養学は畜産学の一部でしたが、私の中では人間も動物ですから応用しようと考えていましたね。おそらくは、私の根幹には農業=食の生産があって、そこに食における栄養としての役割と食べることや作ることの楽しみが加わったのでしょう。この40年で立場も役割も少しずつ変わって来ましたが、食に携わる者としての信念は変わっていません。安全であること、美味しく食べていただくこと、何より消費者に喜んでもらうことを考えてきました。現在はその信念に基づき、長野県の小麦の栽培にまで関わるようになりました」

「当社が企業として生き残る道を探るうえでも、個性的で魅力あふれる県産の小麦粉に注目しています」と、宮崎さん

柄木田製粉の主要製品は小麦粉です。中でも昔から各家庭で愛用されてきた地粉は、おやき、ニラせんべい、うどん、すいとんなどの郷土食づくりには欠かせないものでした。

しかし、柄木田製粉が扱う年間25,000トンの小麦粉のうちの6,000トンが長野県産という厳しい現実があります。冒頭の宮崎さんの言葉にあるように、県内唯一の小麦の製粉会社として郷土食を郷土食たらしめている大切な地粉を守るには、超えねばならないハードルがいくつも立ちはだかっている状況です。

さらに、TPPによって関税が削減されれば安価な外国産の小麦粉が大量に輸入されるようになるでしょう。国産・県産の小麦粉は味や香りといった品質の高さをウリにしているため、価格競争において苦戦を強いられることが予想されます。危機感を強めた宮崎さんは以前にも増して社外とのコネクションを強めて、県産小麦の確保という栽培レベルから関わるようになっていったのです。

「まずは小麦を育ててくれる農家さんの軒数と栽培面積を増やさねばなりません。具体的には、畑作地帯や豪雪地帯など、これまで麦の栽培経験がない地域の方々にも挑戦してもらえるような品種の採用や、土壌への影響など麦を栽培するメリットをしっかり提示しています。農家さんが過剰なリスクを負うことなく、納得して栽培に踏み切ってもらえるような術を探りながら、時間と労力をかけて地道に取り組んでいます」

積雪地や寒冷地でも栽培可能な「ゆめちから」。宮崎さんの働きかけにより、北海道以外で初めて品種利用許諾権と産地品種銘柄を柄木田製粉が取得(写真提供:宮崎さん)

個性豊かで良質な長野県産の小麦粉

ところで、皆さんは普段小麦粉を購入する際に何を重視していますか? 用途に応じて、強力・中力・薄力粉を買い分けていると思いますが、もし何種類もの強力粉がスーパーに並んでいたら、そのうちのひとつをどう選び取りますか?

「小麦粉は小麦の品種によって味も香りもまったく異なります。耳慣れないかもしれませんが実は超強力粉なんてものもあるんですよ。小麦そのものの特性によってでんぷん質が多い、粘り気が強い、色が白くて美しいとか黄色みがあって特徴的だとか、パンの中でもこういう生地に向いているだとか、さまざまな個性があって知れば知るほど面白い食材です。まだあまりよく知られていませんが、長野県で栽培されている小麦にも7種類あり、とても個性豊かな品種が揃っています」

これらの情報を広く伝えようと、生産者および消費者向けのパンフレットを長野県製粉協会が発行。宮崎さんも制作に加わり、7品種の栽培特性を含む特長、栽培面積、生産量、主な産地、品種別のおすすめ用途、そして長野県産小麦粉の製品紹介を掲載しました。

「長野県産の小麦は、栽培においても消費においても特性にすぐれています。品種によって味と香りに違いがあり、消費者の方は使い分ける楽しみが増えると思います。小麦粉を小麦の品種で使い分けるようになれば、それだけ作る楽しみも増えるでしょう。それはつまり、食べる楽しみが広がるということですよね。地域でも家庭でも、食はひとつの伝統であり文化です。しかも気軽に多くの人と幸せや喜びを共有できる手段でもあります。長野県産の小麦の栽培からバラエティ豊かな小麦粉(製品)の提供までをトータルで担うことで、それらの伝統や文化を守り受け継いでいきたいと思っています」

長野県製粉協会発行のパンフレット。県産小麦粉の情報や「信州粉もん祭り」メニューコンテストの優秀作品を紹介

くわえて宮崎さんが常に気に掛けているのが、小麦の栽培を増やすことで高齢化が加速する農業を守り、遊休農地を減らすことで土地そのものを守り、地域の活気や景観をも守ることです。実家が農家ということもあり、農業の衰退や農地の荒廃に敏感な宮崎さん。特に長野市内の遊休農地の多さには不安と危機感を覚えています。

「区画整理がされておらず、大型の農業機械を入れられない遊休農地があちこちにあります。難しいとは思いますが、農業法人に土地をまとめてもらったり、必要なら行政と協力したりして、土地の有効利用を進めるべきです。私自身も、長野県の気候風土に合う品種の選定等に携わってきた経験と製粉の現場で培ってきた知識や技術を生かして、何とか良質の小麦を生産できる体制整備の一助になりたいと考えています」

県産小麦粉の味を「まずは気軽に試してみたい」という方におすすめの、地粉100%使用の麺類

郷土の味に触れ、粉食の魅力を知る機会を

ところで宮崎さんは、取締役という肩書きを持ちながら製造本部長と品質管理室室長を兼任し、くわえて地域のカルチャーセンターやスクール、イベント等で、うどんや蕎麦、パンなどの粉ものづくりの講師も担っています。

「平成14年でしたか、私の地元である千曲市で千曲市産の小麦・ユメセイキを使った地粉うどんの開発に携わることになったんです。その時に手打ちうどんの技術指導もやらせてもらったところ、あちこちから講師として呼ばれるようになったんですね。今は長野市内の小学校でおやきづくりを教えたりもしています」

そこまでするのには、郷土食は文化の一端を担う地域の大切な財産である、という想いがあります。しかし残念なことに、実際には郷土食づくりの技や手作りの楽しさと美味しさを知る人は少なく、家庭の味として認識されにくくなっています。

「季節の野菜を使ったり独自の味付けで楽しんだりと、郷土食を作ることでしか得られない食の豊かさや喜びをどうにか伝えたいと思っています。だから、呼ばれたらできる限り断らないようにしていますので、おかげさまで忙しくさせてもらっていますよ(苦笑)」

小学校でのおやきづくり体験について話す宮崎さん。子どもたちにとって貴重な体験になったことだろう

また、毎年夏、本社・工場で開催される「からきだフェスタ」もまた、宮崎さんにとっては思い入れの強いイベントです。うどんや蕎麦を格安で提供したり、小売店では扱っていない小麦粉を販売したりと、製粉・加工を行う柄木田製粉だからこその魅力が満載です。この催しには、消費者への感謝の気持ちを伝えると共に新たな柄木田ファンを増やす狙いがあります。宮崎さんが意図した通り、年々来場者数が増えており、10回目の今年も1年分の地粉を購入するおなじみさんが数多く来場して終日大盛況でした。

しかし、新たな取り組みのすべてが、最初からうまく行くとは限りません。

「価格は高くても自信を持っておすすめできる良質な地粉を、パッケージにもこだわって小売店に出したものの、なかなか売れずにガッカリしたことがあります。それでも諦めずに講習会でその粉を使ったり、イベントで試食品を提供するうちに、小売店から問合せが来るようになったんです。おそらく、消費者の皆さんが気に入ってくださって、『あの粉はないの? 』とお店に尋ねてくださったのでしょう。こういう手応えを感じられると、今後も地道に頑張って行こうと前向きな気持ちになります」

とは言え、長年粉ひとすじで全力疾走を続けてきた宮崎さんも現在63歳。やりたいこともやらねばならないことも増える一方ですが、どう頑張っても体はひとつしかありません。「実家の農業のこともあるし、そろそろ若い世代への引き継ぎを考えなきゃ、とは思っているんですけどね」と、苦笑い。

もちろん無理は禁物ですが、宮崎さんが惚れ込んだ長野県産の小麦粉の魅力にもっと触れたいと思っている方は多いのではないでしょうか。また、解決すべき課題を内包した食文化の継承や農業の変化・進化においても、宮崎さんの経験や知識に助けられる場面が増えそうです。

何より、「美味しい! 楽しい! 」という食の喜びを熟知した宮崎さんの存在は大きく、その多方面で活躍する姿には、世代を超えて学ぶべきことがたくさんある気がします。

7月に「南部働く女性の家」で実施した講座のテーマは4種類のサンドウィッチ(写真提供:宮崎さん)

(2015/11/16掲載)

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会える場所 柄木田製粉株式会社
長野市篠ノ井会30-2
電話 026-292-0890
ホームページ http://www.karakida.co.jp/

第4回信州粉もん祭り 〜地粉でおやつを作ろう〜
2015年11月28日(土)10時30分〜15時30分
JAちくま本所(住所:千曲市鋳物師屋200)
問合せ:長野県製粉協会事務局(電話:026-292-0890 ※柄木田製粉内、平日8〜18時)
※ 宮崎さん担当の手打ちうどん講習会(要事前予約)、県産小麦栽培・品種紹介、粉もん料理メニューコンテスト、粉もん試食会、地粉商品販売会など粉もんの魅力たっぷりの内容です

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