ナガラボ ながの市の元気研究所

ナガラボとは!?

<子育てがひと段落。自分が夢中になれる事を求める>

大門町にある店舗は3階建て。2015年9月現在は軽井沢店舗のみ営業。10月以降再開を予定している長野市大門町に店と工房を構える染色家の西喜美子さんは、3歳までは和歌山で過ごし、その後神戸へ。何になりたいなどの夢を抱くこともなく、18歳で縁があって結婚し、31歳の時に長野市へ引っ越しました。そして35歳から27年間、音楽や器などにこだわった小料理屋を営み、目利きがある作家や芸術家の人たちが訪れる店へと成長。昔から何かを創作することが好きで、レコード盤を熱でやわらかくしてフレームにしたり、絵を描いた時にはその上にビーズを縫い付けるなどを楽しんでいた西さんは、クリエイティブな人たちと交流するうちに、次第に自分も何かをして成長したいと考えるように。

そんなある日、お客様のひとりであった草木染友禅作家の小山仁郎先生から「アトリエにいらっしゃい」との誘いを受けて、遊びに出かけました。

「そこで初めて小山先生の作品をアトリエで拝見した時、『私が探し求めていたものは、これだ!』と衝撃を受けたんです。ようやく私が夢中になれるものに出合えた喜びから、弟子にしてほしいとお願いをしたんです」

当時、小山先生は弟子を取るつもりは無かったそうですが、熱意に押されたのか学ぶことを許され、46歳にして他の若いお弟子さん達に混じりながら修業をしていくようになりました。毎日が学ぶ意欲に満ち、楽しく、1日も休むことが無かったという西さん。修業を始めて1年が過ぎたころに公募展に出展して入賞、3年目には新人賞を受賞するまでになりました。

「1年目から出展したのは、誰かに品評してもらうことで恥を書くことが勉強になり、さらなる成長を得られるからです」


<西喜美子ならではの染色とは>

もともとガラスのキラキラとした感じや、シルクの透き通った素材感が好きだった西さんは、次第に新たな方向性を模索し始めました。

華やかながらも、落ち着いた印象を受ける美しい紫の羽織もの。まるで天女の羽衣のような軽やかさ「西喜美子の作品を造るなら、毎日使えるようなもの、自分が好きなものに染めていきたいと考えるようになったんです。友禅染で培った経験を糧に、自分にしか表現できないものを求めるようになりました」

しかし友禅染はもともと日本の代表的染色工芸の1つであったことから、周囲からは邪道だと批判されることもあったそうです。しかし西さんはそこで諦めることなく、新たなスタイルに挑戦していきました。

「張り感のあるシルクオーガンジーは、とても軽く、実用性にすぐれています。また染める時には、また、自分のイメージ通りの色のグラデーションを出したいという想いから、草木染めではなく化学染料を使っています。染色は、まるで生き物みたいなんです!同じ色、グラデーションは決して出ないので、1点ごとに新しいものが生み出されるのを実感するんです」

実際に西さんの作品を手にしてみると、同じ青でも、一方は黒さを感じる濃い青、もう一方は黄色を帯びた夏を思わせる青など、ひとつの色から無限の表現が生まれていきます。またシルクオーガンジーのうっすら透ける素材に太陽の光が差し込むと、さらに色が変化して見えます。

1つの色を生み出すのに8色ほどの色を混ぜ合わせている。そのためストールを巻く位置や結び方によって、さまざまな色の表情が感じられる<人との出会いが、作品と人生を豊かに>

もともと工房は横町に構えていた西さんはある日、空き家を借りてもらえないかと相談を受け、何の気なしに見に行ったのがきっかけで、中央通り沿いの大門町に店を構えることになりました。

「そこは3階建のふつうの民家でした。とても気持ちの良い風が流れていて、一瞬で好き!って思ったんです。見せてくださった方もとてもいい方でね。横町に場所はあったのに、借りてしまったんです。所有されていたおばあちゃんが、どこか私の母に重なる部分もあって、これは縁じゃないかなと」

その後は所有者の方にも手伝ってもらいながら片付け、改修が進んでいき、2009年7月にギャラリースペース、カフェ、工房を兼ねた「染工房kimi」をオープンしました。

「私ね。どこに行っても、人に恵まれているの。それは本当にありがたいことです」


ストールには蝋やボカシを入れて、1つひとつに個性を感じる作品に
実際に創作する時には、いろんな人と出会った時のインスピレーションから生まれるものが多いそうです。

「私は長野市と軽井沢町に店と工房を構えているのですが、よく仲間が美味しいお酒とともに遊びに来てくれるんです。そんな時間が大好き。今度あなたも一緒に飲みましょうよ!」

どんな話にも、正直に、そして軽やかに話してくれる西さん。それ以上に相手を温かく包み込む大きな優しさを感じさせるその人柄こそ、彼女の作品をより豊かで美しいものへと昇華させているようです。



店と同様に工房も軽井沢と長野に構えるそして今年の11月には日伊文化交流センター主催でローマ大学で開催する日本の文化を伝えるイベントに参加するために準備をしています。期間中は友禅染の振袖の展示をはじめ、蝋友禅染の実演や、糸取りした繭でランプシェード作りの実演を予定しています。

「外国に行く時は、作品のストールを何枚か持っていくんです。もし何かあっても、私はこれを売ればどうにかなる。そう思っているんです。これからはもっと赤ちゃんのように、しばりを捨てて自由になりたいです」

店を営んでいることから、創作の時間は夜から朝にかけて行います。70歳を過ぎてもなお、徹夜することがあるという西さん。その姿勢は果てしなくストイックですが、それ以上にはばたく瞬間の鳥のような軽やかな雰囲気をまとった素敵な女性でした。

(2015.09.28 掲載)

会える場所:染工房kiimi

住所 長野市大門町42
電話 026-234-8188
ホームページ http://some-kimi.com/

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